■とても悲しい出来事と不思議の森
冬が過ぎて、暖かい春が訪れました。
今日はキャメルにとって、とても悲しい出来事がありました。それはキャメルのおばあさんが、病気になって寝込んでしまったのです。
「おばあちゃん、大丈夫?」とキャメルはおばあさんのそばにずっと座って、おばあさんの様子を見ながら声をかけていました。そして、
「何か食べる物を持ってくるわ」とキャメルが言うと、「あっ、いいよ。ここへ座って、私の話を聞いておくれ」とおばあさんは弱々しい小さな声で言いました。
「なあに」とキャメルが問いかけると、おばあさんはポツリポツリと話をはじめました。
「キャメル、もし私が死んだらコルマールへ行くんだよ。コルマールへ行けば、きっと父さんや母さんやアルベルトに会えるよ。そこの机の引き出しに、コルマールへ行く道が書いた地図があるから見てごらん」
キャメルは急いで机の所へ行ってみました。いつも机の引き出しには鍵がかかっていて、おばあさんの宝箱のように思っていたキャメルですが、今日は引き出しの鍵はかかっていませんでした。
キャメルは、そっと引き出しの中を覗いてみました。すると、
引き出しの中には、おばあさんが今まで沢山の縫い物をしてきた針や、糸やパッチワークのはぎれが入っていました。
そしてボタンが入った箱の下に、薄い黄色い紙がありました。「これだわ」とキャメルは言いながら、薄い黄色い紙を取ると開いてみました。
そこにはコルマールへ行く地図が記されていました。そしてその地図の中ほどを見ると、『不思議の森』という文字が書いてありました。
「不思議の森?ここを通らなければコルマールへは行けないのかしら?」とキャメルはひとりごとを言って、後ろを振り返りながらおばあさんにたずねました。
「この不思議の森って何なの?」「ねぇ、おばあちゃん」とキャメルがたずねましたが、いっこうに返事がありません。
急いでベッドのそばへ戻ってみると、もうすでにおばあさんは息をひきとって、安らかに天国へ召されていました。
「おばあちゃん、私を一人にしないで。おばあちゃん」キャメルは泣き叫びました。そして、一日中悲しみに包まれたキャメルの泣き声が、ピンク色の木組みの家から草原へと響きわたっていました。

それから時は過ぎ、おばあさんが亡くなってから一ヶ月が過ぎようとする頃、おばあさんが言った通り、キャメルはコルマールへ旅立つ決心をしました。
そして次の朝、キャメルは食べる物をバスケットに詰めると、大好きなピンク色の家を後にして旅立ちました。
コルマールまで歩いて行くには、丸二日もかかります。「この草原のずっとずっと向こうにコルマールがあるんだわ」とキャメルは、少し不安な足取りで草原の中を歩いていきました。
キャメルが草原の中を歩く度に、春風が服や髪を優しくなびかせていました。
キャメルは後ろを何度も振り返りながら、ピンク色の木組みの家を眺めました。
「きっと帰ってくるわ。そして、父さんや母さんやアルベルトも一緒に帰ってくるわ。この村や、この草原の中の私の家は、大切な宝物だもの」と、キャメルは自分に何度も言い聞かせながら歩いていきました。
そしてしばらく草原の中を歩いていると、小鳥の群れが空高く飛んでいました。
キャメルは、立ち止まって空を見上げました。「今日はとてもいい天気だわ。きっと、おばあちゃんが天国で私を導いてくれているんだわ」とキャメルはいいながら、バスケットを草むらに降ろすと、両手を空高く振り上げて、力一杯春の草原の空気を吸い込みました。そして静かに両手を降ろすと、バスケットを持って歩きはじめました。
しばらく歩きつづけましたが、その内にキャメルは足が疲れて、おなかもすいてきたのでバスケットの中から、いちごの柄の敷物を取り出して広い草原の中に敷いて座りました。
そしてバスケットを開いてパンを食べようとしました。
するとどこからか頭に五枚はねがある変わった小鳥がやってきて、キャメルの頭にチョコンと止まりました。
キャメルはびっくりして手を小鳥に近付けました。そしてそっと手の平を差し出すと、なんとその小鳥は「ピッポピッポ」と鳴いてキャメルの手の平へチョコンと乗りました。
「まあ、変わった格好の小鳥さん、きっと仲間はずれにされたんだわ。あなたも寂しいのね」とキャメルが言うと「ピッポピッポ」とその小鳥は鳴いて返事をしている様に思えました。そしてキャメルはその小鳥を下へ降ろすと、「パンをおあがり」と言って、パンを小さく切って小鳥に食べさせました。
まわりの景色は広い草原で、遠くの方に一、二件の家が見えるだけでした。
でもその遠くの方へ目をやると、こんもりとまん丸い可愛い小さな森が見えました。
キャメルは急いでポケットから地図を出すと、一生懸命地図の位置を確かめました。
「あの森が不思議の森だわ」とキャメルは、遠くに見えるこんもりとした森の方を指差しました。「明るい内に早く不思議の森を通り抜けなきゃ。早くしないと日が暮れてしまうわ」とキャメルは言うと、いちごの柄の敷物を急いでたたんでバスケットの中へしまいこみました。
そしてバスケットを持ち上げると、急ぎ足で森の方へと歩き出しました。
すると小鳥はキャメルの肩先に止まってきて「ピッポピッポ」と鳴きました。そしてキャメルの肩先から離れようとはしませんでした。
「わかったわ。あなたも一緒に行きましょう。そうだわ、ピッポちゃんていう名前にしましょう」とキャメルが言うと、その小鳥は「ピッポピッポ」と鳴きました。
しばらくすると、ピッポは「ピッポピッポ」とせわしく鳴きはじめて、そして
何度も森の方へ飛んでいっては戻ってきて、キャメルの肩先に止まりました。
「わかったわ。あそこが不思議の森なのね」とキャメルは言いながら、森の方へ進んでいきました。そしてその内にだんだんこんもりとした森が目の前に広がってきました。
「あんがい、遠くから見るより大きな森だわ」とキャメルは迫ってくる緑の木々に圧倒されました。すると一本の道が森の中へと続いていました。
「ここから森へ入っていくのねピッポ」とキャメルは言うと、おそるおそる森の中へと続く道を歩いていきました。キャメルは今まで一人で森へなど来た事がなかったので、だんだんドキドキしはじめました。
その内に森は何か不思議な気配がして、キャメルを呼んでいるようにも思えました。
そして、だんだん森へ吸い込まれるように歩いていると、何やら白い看板が道の脇にありました。キャメルはドキドキしながら看板の文字を近寄っておそるおそる読んでみました。
すると看板には『不思議の森入り口』と書いてありました。
キャメルは声を震わせて「ここだわ。ここから不思議の森に入っていくんだわ」と言った瞬間、いきなり何かが向かってきました。
「きゃー、何なの?」とキャメルが叫ぶと、「ピッポピッポ」とピッポもびっくりして鳴きながらキャメルのまわりを飛びまわりました。よく見ると、白いふくろうがキャメルの目の前を勢いよく飛んでいきました。そしてふくろうは、不思議の森へ少し入った太い木の枝に止まり、じっとキャメルの方を、大きな目で見つめました。
「ふくろうなのね。びっくりしたわ。でもなぜ白いふくろうがこっちを見ているのかしら。それに、キノコが春に生えているなんて変よ。この先不思議な事がおこりそうで怖いわ。どうしたらいいの?でも、おばあちゃんが見守っているし、ピッポもいるから大丈夫よね」とキャメルはドキドキする気持ちを押さえながら小さな声で言うと、少しずつ不思議の森へと進んでいきました。


さて、次はどんな事になるのでしょう?

▼妖精プルグリムとお菓子の国
Vol.1「キャメルと小さな木組みの家」
Vol.2「とても悲しい出来事と不思議の森」
Vol.3「不思議の森の中へ」
Vol.4「不思議の森の住人トリーアングルペルソンヌと、こわい森」
Vol.5「こわい森と、森の妖精プルグリム」
Vol.6「不思議の森からコルマールの町へ」
Vol.7「虹の向こうへ〜はじめての町コルマール」
Vol.8「美しいコルマールの町」
Vol.9「マシュマロの形をした弟アルベルト」
Vol.10「空へ飛んでいった生クリーム」

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