姉弟仲良くこのお菓子工場で、働いてもらう事にしようかね」と魔女は言うと、ふところから魔法の杖を取り出して、「マシュマロにおなり!」と、お城に響きわたるような大声で叫び、キャメルめがけて魔法の杖を振りかざそうとしました。「ちょっと待って!私がマシュマロの姿になる前に、あなたとお話がしたいわ!」とキャメルは魔女に負けないくらいの大きな声で必死に叫びました。するとキャメルの叫んだ声が、お城の壁に跳ね返って魔女の心の奥底まで届きました。「話が?この私と話がしたいなんて初めて言われたよ」と魔女は振りかざそうとした魔法の杖を下に降ろしながら、目を丸くしてキャメルの顔を見つめて言いました。 「お城の形をしたお菓子工場なんて、とてもすてきだわ!きっと甘いおいしいお菓子が沢山作られているのね。このお城の名前は、幸せのお城(ボヌールシャトー)っていうんでしょう?」キャメルは無我夢中で喋りました。すると魔女の顔が、さっきの怖い表情から少し柔らかな表情に変わりました。そして寂しげな顔になりました。空中に浮いていた魔女は、お城の床に降り立つと「おいしい?それがちっとも幸せな気持ちになれなくてね」と、うつむいて弱々しい声で言いました。 それから、お城の奥へと続くアメで出来た大理石のような廊下を歩きはじめて「さあ、こっちへきて話をしようじゃないか」とキャメルとアルベルトをお城の応接間の方へ案内しました。応接間の扉はチョコレート(ショコラ)で出来ていて、カカオの香りが辺りに甘く漂っていました。そして魔女の案内で応接間へ入ると、応接間のテーブルにはおいしそうな食べ物が沢山並んでいました。「ベークホーフ!」とキャメルは目を輝かせて言いました。そうです。ベークホーフ※1はアルザスの郷土料理で、リクヴィールのキャメルの家では、毎日おばあちゃんが作っていた懐かしい料理だったのです。 「さあ、椅子に腰かけてたんとおあがり」と魔女は二人に優しく言いました。そして魔女もゆっくりと椅子に腰をかけると、二人に話しかけました。 「このお城のてっぺんが私の部屋で、下の1階と2階がお菓子工場になっているんだよ。私はお菓子が大好きで、1日10kgほどお菓子を食べるんだよ。お菓子は山ほどあるし、何不自由なく暮らしている。でもいくら大好きなお菓子を食べてもちっとも心が満足しないんだよ。何故だか分からないよ」と魔女は言いました。「10kgもお菓子を食べておなかこわさないの?」とアルベルトが魔女に尋ねると、「魔女はいくらでも食べられるんだよ。食べた物はがすぐ消化されて、魔力に変わるのさ」と魔女は答えました。「へぇすごいわ。でも食べ物は魔法で作ったお菓子でもかまわないんでしょう?」とキャメルが尋ねると、「そりゃ、どんな物を食べても私の体は平気さ。全部魔力に変わるのさ」と魔女は言いました。「じゃあコルマールの人たちを元の人間に戻してあげて!それに食事をあまり与えないで、無理に働かせるのはかわいそうだわ。お願い!元通り自由の身にしてあげて!」とキャメルは一生懸命魔女に頼みました。「ハハハハハハお菓子があるじゃないか。人間たちはお菓子を食べてりゃいいのさ。 私ははじめから人間たちをいじめるつもりは少しもなかった。いじめられたのは私の方だよ。人間たちの方から、私をひどい目に合わせたんだよ!今でも忘れはしない、今から100年ほど前に、私は人間たちと仲良くなりたくて、人間たちの住むこのコルマールの町へやってきた。そして、私はすぐにでも人間たちと仲間になりたいと思って、魔法を使って人間たちを喜ばせた。でも、人間たちは私の事を、魔女だと知ると急に魔物あつかいにして、そっぽを向いて逃げ去っていく。そしてあげくの果ては、石まで投げて私を町から追いはらったんだよ。魔女なんて生まれながらにして一人ぼっちなんだよ。だれも相手にしてくれない切ない気持ちが分かるかい?」と魔女は言いました。そしてキャメルの顔を見つめて少し微笑みを浮かべながら、「だが、あんたは他の人間と違う。この魔女の私と話しがしたいと言ってくれたね」と言うと、魔女はゆっくりと立ち上がって「今、珍しいお菓子があるから見せてあげるよ」と言いながら応接間を出ていきました。 アルベルトが小さな声でキャメルに言いました。「今、ここを出なきゃお母さんを助けられないよ」「そうね。でももう少し待って!魔女にもういちど頼んでみるわ」とキャメルが言うと、アルベルトは「もう待てないよ。僕お母さんに会いたいよ」と小さな声で言いながら、急いで応接間の扉の方へ駆け寄って扉を開けて出ていってしまいました。キャメルはびっくりして扉に駆け寄り、扉の外へ出て階段の方へ向かって走っていくアルベルトの姿を目で追いながら、「アルベルト、ちょっと待って!」と必死に小さな声で叫びましたが、「早くしないと魔女が戻ってきて、助けられなくなっちゃうよ」と、アルベルトは言いながら2階の方へ降りていきました。すると、廊下を歩く魔女の足音が聞こえてきました。
キャメルは慌てて再び応接間の椅子に座って、魔女が応接間に戻ってくるのをドキドキしながら待っていました。しばらくすると、魔女が応接間に入ってきました。片手には七色の包装紙で包んだ物を持っていました。魔女は応接間に入るやいなや、アルベルトが座っていた椅子の方をするどい視線で見つめて、「弟は、何処へいったんだい?」と、低いどなり声を上げました。キャメルは体中が氷りつくように冷たくなって、動けなくなりました。 魔女は、悲しそうなするどい目でキャメルを見つめました。そして「私が目を離したすきに、お菓子工場で働いている人間たちを、逃がす気だね!私をだましたね!」とキャメルに大声で、どなりつけました。それから魔女は急いで応接間を出て行って、階段を降りていきました。キャメルは慌てて魔女の後を追いかけて「待って!違うの!話を聞いて!」と、魔女に向かって叫びましたが、魔女は、とても怖い顔でキャメルを見つめ、「もう、だまされるのは、ごめんだね!」と言い残して、ものすごい勢いで黒いマントをひるがえしながら2階のお菓子工場へ向かっていきました。 お菓子工場には、沢山の機械やオーブンや鍋があって、マシュマロの形をしたコルマールの人々が、一生懸命チョコやクッキーを作っていました。
魔女は、2階のお菓子工場へ入ると、するどい目つきでアルベルトの姿を捜しました。その時、部屋の隅にいたアルベルトが、部屋の隅にある、もうひとつの扉を開いて「みんな早く、この扉から逃げて!」と叫びました。すると魔女は怒り狂って、魔女の杖を振りかざしました。 「二人とも石におなり!」「あー」キャメルとアルベルトは、しゃがみこんで目を両手で塞ぎました。 さて、キャメルとアルベルトは石になってしまったのでしょうか? 次をお楽しみに