「石におなり」と叫んで魔法の杖をキヤメルとアルベルトに振りかざした魔女。
二人は石になってしまったのでしようか?




魔女は魔法の杖を振り上げたまま急に静止して動かなくなりました。そして魔法の杖は滑る様に魔女の手から離れ「カラン」と音をたてて床に落ちました。突然魔女は、両手を頬に当て床に崩れる様に倒れて「痛い!痛い!」と叫びました。よく見ると、魔女の頬は真っ赤に腫れ上がっていました。それもそのはず甘いお菓子を沢山食ぺるので、虫歯になったのです。それもひどい虫歯菌に犯されてしまったのでした。魔女は高熱が出て、顔全体が赤くなりました。そして魔女は、マントにうずくまって震えました。キヤメルとアルぺルトは放心状態で、ただじっと魔女を見つめていました。すると、その様子を目を見張るようにして見ていたお菓子工場のコルマールの人々は、みんな一斉に立ち上がって両手を上げて「バンザーイ!」と喜びの声を上げました。

そして、一人のコルマール人が嬉しそうに大声で言いました。「君達石にされなくてよかったよ。病気になった魔女は魔法を使えないんだ。もう怖くないさ」今度は、他の一人のコルマール人が、「こんなひどい魔女は、お城の裏の崖からつき落としてしまおうよ」とみんなに向かって言いました。すると「そうだ、そうだ」とコルマールの人々は口々に言い出して、手をたたいてさわぎはじめました。そしてみんな魔女の回りに集まって、魔女をロープでぐるぐる巻きにしようとしました。キャメルは人々のさわぐ様子を見て、興奮した顔をしながら叫びました。「ちょっと待って!魔女の心がすさんでしまったのは、私達人間のせいよ!魔女はこの世で一人ぼっちなの。300才にもなった魔女をいじめないで!病気で弱っている魔女にそんなひどい事をしないで!それに魔女が魔法を使えなくなれば、あなたたちは元の人間に戻れないのよ!魔女を助けましょう」すると急に辺りはしんと静まりかえりました。



と、その時、顔をマントにうずめて床に倒れて震えている魔女が、突然苦しそうなうなり声を上げて言いました。「うー。魔法の草アルザスクローバーさえあれば、あの草さえあればどんな傷でも、瞬時に直せるんだよ」「えっ、なんて言ったの?アルザスクローバー?その草は何処に生えているの?」キャメルは、苦しそうにうずくまっている魔女に近寄って尋ねました。すると魔女は再びマントから顔を出して、弱弱しい声で言いました。「お、おお城の裏に風の谷という名の谷があるんだよ。その谷間の崖に生えているんだよ。1年に数本しか生えない貴重な魔法の草なんだよ。私はもう魔女ではないただの老婆さ、とても崖など降りれないよ。それにこのままじゃもうすぐ死んじまうよ」キャメルは、大きく腫れてゆがんだ顔をした魔女の顔を見つめて思いました。すっかり弱りきってしまった魔女や、コルマールの人々を助けるのは自分しかいないと、その時思ったのでした。

「分かったわ。私が必ずアルザスクローバーを取ってくるから死なないで!」キャメルは魔女の手をしっかり握りしめて、堅く約束しました。その時、かすかに魔女の顔がうっすらとした不気味な笑みを浮かぺました。「僕がいくよ!」キャメルの後にいたアルぺルトがキャメルに言いました。「大丈夫よ。アルベルトは1階のお菓子工場の人々に、魔女が病気になった事を知らせてあげて!そしてそこにきっとお母さんがいるはずよ」とキャメルはアルベルトに言いました。「分かったよキャメルお姉ちゃん!」とアルベルトは言うと、急いで2階のお菓子工場を出て、階段を降りていきました。するとコルマールの人々は、再びさわぎはじめました。「止めたほうがいいよ!」「そうよ。魔女なんか助けても、私達は今までどおりこき使われるだけだわ」「風の谷は、突風が吹いているんだよ、危険だぞ」「そうよ。私達マシュマロだから、すぐ吹き飛んじゃう、とても降りれないわ。想像しただけでも怖くなるわ」「魔女が魔法を使えば簡単に降りれるんだけどな」「その魔女が、病気で魔法を使えなくなったのよ」とコルマールの人々は、がやがやと話をしました。キャメルはその間にお菓子工場を出て、らせん階段の方へ向かいました。するとコルマールの人々は一斉に話を止めて、キャメルの後からぞろぞろと、らせん階段を降りていきました。キャメルはらせん階段を降りると、お城の裏の崖の所までやってきました。



そして、おそるおそる崖の上から谷底を覗いてみました。「うあー。あんなに深い所に、谷底があるわ!もし足でも滑らせたら命はないわ。でも急な傾斜じやないからロープなしで降りれるわね。よし、勇気を出して降りてみるわ。きっと降りていく内に、アルザスクローバーが見つかるわよ。おー、それにしても深いわ」とキャメルは独り言を言いながらゆっくりと後ろ向きになって、岩を両手でしっかりと掴んで、足を岩と岩の隙間に置きました。そして片足ずつゆっくりと踏み締めながら降りていきました。崖には時折突風が吹いて、戻るのなら今の内と言わんばかりに、キャメルのスカートの裾や、コートがはためきました。キャメルは留まって、もう-度谷底を覗いてみました。よく見ると、谷底近くに水気を帯びたつるつるとした苔が生えているのが見えました。突然キャメルは震えあがりました。「苔が!谷底に落ちたら、もう這い上がれないわ」とキャメルは心の中で叫びました。それでもキャメルは、ドキドキする気持ちを押さえながら、再び片足ずつゆっくりと降りていきました。すると宝石をちりばめたような光りが、キャメルの足元の斜め下に見えてきました。キャメルは、その光りの方へ向かって降りていきました。



するとなんと岩の隙間に、オレンジ色に輝く美しいクローバーを数本目にしました。「あったわ!きっとこれだわ!アルザスクローバーよ!なんて美しいの!オレンジ色のクローバーなのね」とキャメルは言いながら、少しずつクローバーに近寄って岩の隙間に手を伸ばしました。するともう片方の手でしっかりと掴んでいる岩が、急に崩れはじめ、細かく砕けて「カーンカーン」と音をたてて谷底へ落ちていきました。「はっ」とキャメルは驚きの声を上げ、とっさに別の岩を掴みました。それからゆっくりと背伸びをして見事にクローバーを摘み取りました。そしてそのクローパーを、左手でしっかりと握りしめて、ゆっくりと上を見上げました。すると崖の上から、何人ものコルマールの人々が、覗きこんでキャメルを心配そうに見つめていました。しぼらくするとその近くに、魔女の姿が見えました。魔女は痛々しい頬を両手で抱えこむ様にして、崖に寄りかかりながら、キャメルの方を見降ろして様子を伺っていました。コルマール人の一人が崖を降りようとしましたが、突風が吹いて、とても降りれませんでした。その内に、コルマールの人々の声援が、谷間に響き渡ってきました。

「キャメルーがんばれよー下を見るな!弱気になったらおしまいだぞー!」キャメルの目が生き生きと輝きはじめました。「大丈夫!ほら、クローパーが見つかったのよ!もうすぐそっちにいくわ」キャメルは崖の上の人々に向かって叫びました。それからキャメルはひたすら上へ向かって登っていきました。「もうすぐよ!もうすぐクローバーを渡せる」とキャメルは心の中で叫びながら崖を登っていきました。そしてやっと魔女の手の届く所までたどり着きました「これがアルザスクローバーでしよう?」キャメルは魔女の方へアルザスクローバーを差し出しました。すると魔女は急に両手を頬から離して、右手を差し出すと、「そうさ!早くおよこし!」と言いながらすごい勢いでキャメルの手からアルザスクローバーをわしづかみにして、奪い取りました。その時、キャメルの両足が大きく揺れ動きました。そしてキャメルの足元の岩肌がもろくなっていたせいで砕けはじめました。「あぶない!」コルマールの人々は一斉に叫びました。それからコルマールの人々は一斉に両手で目をふさぎました。

次号へ統く


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文芸社http://www.bungeisha.co.jp/search/detail.php?bid=21973
東京都新宿区新宿1-10-1 TEL.03-5369-2299 FAX.03-5369-3066

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