
魔女は虫歯の痛みに耐えきれず、勢いよくキャメルの手からアルザスクローバーを奪い取ってしまいました。その時、キャメルの足元が大きく揺れ動きました。そしてキャメルの足元のもろくなった岩肌が崩れはじめ、キャメルは崖を、滑るように落ちていきました。「私は、もうおしまし!」とキャメルは心の中で叫びました。滑り落ちていく瞬間は、とても長い時間に感じられました。キャメルの頭の中に、いろいろな思い出が走馬灯のようによみがえってきました。おばあちゃんの事や、家族と過ごした日々、そして不思議の森へいって、そしてプルグリムに出会った事を思い出しました。
すると、キャメルの耳元にプルグリムの言った言葉が、はっきりと聞こえてきました。「君は、必ず家族を捜し出して、リクヴィールの村を豊かにして、幸せに暮らすんだ」その言葉が、プルグリムの声が、キャメルの頭の中をかけ巡りました。そして目に飛び込んで見えたのは、七色キャンディー。キャメルは「死にたくない!」と心の中で叫びました。そしてこんしんの力を振りしぼって、おもいっきり岩にしがみつこうとして、両手を前に突き出しました。運のいい事に、一つのとがった岩に両手が触れて、キャメルはその岩を必死に掴んで、しがみつきました。

でも、その岩の下は断崖絶壁になっていて、キャメルはしばらく岩を掴んだまま、ぶらさがって足をばたばたさせていました。岩が突き出ている為、足は宙に浮いたままの状態で、それに相変わらず、激しい突風が吹き荒れていました。
「キャメルー大丈夫か?今、ロープを持ってくるから、もう少し頑張るんだぞー!」コルマールの人々は、崖の上から叫びました。キャメルは必死になって岩を掴んでいましたが、激しい突風にあおられてついに、両手を離してしまいました。「あー」と叫ぶ人々。コルマールの人々は再び、両手で目を塞ぎました。それからゆっくりと両手を離し、谷間を覗きこんでキャメルの姿を捜しました。「生きているわ!呼吸をしているわよ!」「ほんとだ、ほんとだ!」よく見ると、キャメルは手の平の形をした岩の上に倒れていて、足から血を流していました。「早くキャメルを助けましょう!」コルマールの人々はさわぎはじめました。「そうだ!だれかがロープを持って降りるんだ!」コルマールの人の一人が叫びました。と、その時、その近くであぜんとした顔で、その様子を見ていた魔女が、再び定期的に虫歯の痛みが歯から全身にしびれるように伝わってきて、魔女はうっかりアルザスクローバーを手放して、両手を頬に持っていき、「痛い!」と叫びながら地面にうずくまってしまいました。うっかり魔女が手放した数本のアルザスクローバーは、はらはらと谷底へ舞い落ちていきました。

そしてアルザスクローバーは、ちょうどキャメルの上に舞い落ちてきました。キャメルは、まるで夢から覚めたように起き上がり、上を見上げました。すると赤青黄色と様々な宝石のような光を放ったアルザスクローバーが、キャメルの足の上に舞い落ちました。オレンジ色のクローバーの葉が足の傷口に触れ、金色のまばゆい光の中にキャメルの足はすっぽり包まれました。しばらくするとクローバーは光とともに消え、キャメルの足の傷はあとかたもなく消えてなくなっていました。 そればかりかキャメルの頬はピンク色に輝き、そしてキャメルは、燃え上がるような元気を取り戻したのでした。「不思議だ!」「奇跡よ!奇跡が起こったわ!」「そうだ!神様は魔女の虫歯より、キャメルを助けたんだよ!」(注)
「そうに違いないわ!だってキャメルが岩にぶらさがっている時には、手の平の形の岩なんてなかったもの」「キャメルが無事に助かってよかったわ」と言いながらコルマールの人々は、崖の上から手をたたいて喜び合いました。
その時、魔女がよたよたと立ち上がり、谷底を覗きこみました。「魔女が立ち上がったぞ!気をつけろ!」「魔女は魔法が使えないわ、大丈夫よ」コルマールの人々は小さな声で囁きながら、少しずつ魔女から遠ざかりはじめました。魔女は「お待ち!」とかすれた声で人々に近づき、一人のコルマール人の襟足をむんずと掴み、震える手でそのコルマール人の顔を岩肌に押しつけ、他のコルマール人の目を一人一人にらみつけて「私は、今まで一度も幸せを感じた事がなかったよ!」と叫びました。
(注)昔から、キリスト教徒が大多数を占めるフランスでは、神の存在を信じていました。現在も、毎年クリスマスになるとフランス各地で神をたたえ、盛大に祝います。もみの木に飾るオーナメントは、ここ、アルザスからはじまりました。昔、11世紀頃クリスマスイブに、アルザスの教会の庭で、アダムとイブの物語が演じられていました。庭のもみの木をりんごの木に見立てて演じていたのです。それがきっかけとなり、人々は我が家で、もみの木にりんごを飾るようになりました。そしてクッキーや様々なオーナメントを飾るようになったのです。今やクリスマスになると、世界中の人々がもみの木にオーナーメントを飾り付け、祝うようになりました。
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