「クローバーが効かないわ!お願い神様魔女を助けて!」キャメルは必死に祈り続けました。すると目を閉じたままぐったりとして動こうとしなかった魔女が、うっすらと目を開け、弱りきった震える手をキャメルの髪に差しのべ、優しく撫でながら語りかけました。「キャメルもういい、もういいんだよ。神様は、私のように心のすさんだ者をお助けにならないのさ。キャメル悲しむのはおやめ。私がこの世を去る事で人々は元の人間に戻るんだよ。私の存在がなくなる事で、すべて元に戻る。キャメル、幸せに生きるんだよ。私は今とっても幸せさ。こうしてあんたがそばにいてくれるからね。私はね、家族も友人もいないこの世にたった一人きりなんだよ。人間たちが羨ましかった。人間たちは世界中の仲間がいるだろう。
世界中の町のあちこちでおいしそうにお菓子を食べながら、楽しく仲間と語り合っている。もしかしたら、人間たちが作ったお菓子を食べれば、私にも幸せがくるかもしれないと私は思ったんだよ。私はコルマールの丘の上に、幸せの城(ボヌールシャトー)を建て、人間たちから幸せを奪おうとしたのさ。間違った魔法の使い方をしてしまったよ。人間たちに本当にすまない事をしたね。これからはきっとコルマールに幸せが訪れるさ。コルマール人は、私の為に沢山お菓子を作ってくれたからね。きっとお菓子作りの名人になるだろうよ。コルマールの町は、お菓子の国と言われるほど栄えるさ」と魔女はかすかに微笑みながら言い終えると「本当はねキャメル、一度だけでもいいから、あんたと楽しく笑いながらお菓子を一緒に作ってみたかったよ」とぽつりとさびしげに言い、最後に悲しい表情を浮かべ、震える手を地面に降ろし、目を閉じました。真っ赤に腫れ上がった魔女の顔が、青白く変わっていきました。キャメルはそっと魔女の手に触れました。キャメルの髪を撫でた魔女の手は、氷のように冷たくなっていました。
キャメルは急におばあちゃんが亡くなった時の事を思い出し、冷たい魔女の手をいつまでも握りしめて大声で泣き叫びました。近くにいたコルマールの人々も、次々と地面に座りこんで涙を流しはじめました。 すると不思議な事に、そのコルマールの人々が流す涙の一粒一粒が、オレンジ色のクローバーに変わりはじめ、コルマールの人々は、次々と元の人間の姿に戻っていきました。
「わー、人間に戻った、戻ったぞ!」「ほんとだわ!」コルマールの人々は、両手を上げて喜び合いました。するとキャメルと魔女の回りにも、次々とクローバーが咲きはじめ、お城の周り一面にオレンジ色のクローバー畑になりました。キャメルが嬉しそうな声で叫びました。「温かいわ!魔女の手が温かい!」キャメルは魔女が生き返った事に気付き、魔女の顔にそっと触れました。すると魔女の顔にだんだん赤みがさして、魔女はむっくり起き上がり、キャメルを見つめて微笑みました。キャメルと魔女はしっかりと抱きしめ合い喜び合いました。

それから魔女は、ゆっくりと立ち上がって大空を見上げ、まるで生まれたての天使のような顔で話しはじめました。「私は子供の頃、宇宙の彼方からこの星にやってきた。その宇宙の彼方の星は、仲間同志の争いで滅亡したのさ。私の両親は私を一人この星に残して、宇宙の彼方へ消えていってしまった。仲間同志傷つけ合うと、最後には一人ぼっちになっちまう。私みたいにね」と言うと、魔法の杖を力いっぱい大空に円を描くように振り回し、大空に向かって叫びました。「これが私の最後の魔法だよ。虹よ!幸せの橋をこの星にかけておくれ!」すると今まで見た事もない不思議な七色の虹が大空に現れました。
その不思議な虹はリボンのように長く長く伸びはじめ、地球をまるく一周したのです。その不思議な虹を世界中の人々が空を見上げ見つめました。すると人々の心の中に、春の日差しのようなほんわかと温かいものが宿り、人々はおだやかな気持ちになったのです。その不思議な虹は、戦争をしている国々の人々の目にも止まりました。「一体、争って何になるのだろう?」戦争をしている人々は、みずから武器を放棄しはじめたのです。魔女が願いをこめて大空に描いた虹は、世界の人々の七色の瞳の色。人々はその七色の美しさに気付いたのです。もちろんコルマールの町中の人々も元の人間の姿に戻って、コルマールの町はお祭り騒ぎになり、今まで仲の悪かった人々同志も手を取り合って喜び合ったのです。

魔女は力のかぎり魔法の力を使いはたし、ぐったりとして座り込んでしまいました。しばらくすると、魔女はよたよたしながら立ち上がり、風の谷の崖っぷちに立ち谷底をのぞきこんでじっと見つめていました。「やめろ!」「谷底へ落ちて死ぬなんて止めてよ!」「再び授かった命を大切にしなきゃ!」コルマールの人々は、魔女の後ろ姿を見て叫びました。魔女は深い溜め息をつくと、ふところから魔法の杖を取り出し、力強く谷底へ放り投げたのです。「えい!」魔法の杖は「カラーン」と美しい音色をたて、谷底へ落ちて金色のまがゆい光を放ちながら砕け散りました。すると風の谷間の突風が収まり、静けさが訪れました。谷底からサラサラと川の流れる音が聞こえてきました。魔女は振り返り人々に向かって叫びました。「私はもう魔女ではない!この星の仲間なんだよ!これからは、この星の為に一生懸命働いて幸せを掴むよ!」コルマールの人々は「あんたも仲間だよ!」と言いながら魔女の回りに集まって魔女の手を取り、みんなでアルザスのフォークダンスを踊りはじめました。

キャメルは魔女や人々が、輪になって楽しそうに踊っている姿を眺め、喜びで胸がいっぱいになり、「プルグリム!きっと町や村は豊かになるわ!」と心の中でそう叫び続けました。
すると「キャメル良かったね!」プルグリムの声が聞こえました。「プルグリムどこにいるの?」キャメルは辺りを見回しながら叫びました。「僕は、いつでも君のそばにいるよ」プルグリムは答えました。「あなたに貰ったキャンディーが、私を救ってくれたわ!」とキャメルが言うと、「僕が君にあげたキャンディーは、魔法のキャンディーじゃないよ。だれでも自分の力を信じて、力の限り頑張れば望みがかなうんだよ」とプルグリムは答えました。
キャメルは必死にプルグリムの姿を捜しました。するとキャメルのポケットの中にあるキャメルの小さなバスケットがかってに動き出し、ポケットから飛び出して地面に落ちました。「私のバスケット!」キャメルがバスケットに触れると、消しゴムみたいに小さくなっていたキャメルのバスケットは元の大きさに戻りました。そしてバスケットの中からピッポが飛び出してキャメルの回りを飛び回りました。やがてピッポの姿は消え、キャメルの目の前に一人の男の人が現れました。
キャメルはその男の人をじっと見つめて、目にいっぱい涙を浮かべました。そして大声で叫びながらその人にしがみ付きました。「お父さん!」そうです。ピッポはキャメルのお父さんだったのです。「魔法をかけられて、鳥の姿になっていたんだよ。キャメルの事が心配で、バスケットの中からずっとキャメルを見守っていたんだよ」とお父さんは、キャメルを大きな胸でしっかりと受け止めて言いました。すると「キャメルお姉ちゃん!」と叫ぶ声が聞こえました。「アルベルトの声だわ!」キャメルが振り向くと、お城の方から人間の姿に戻ったアルベルトとお母さんが、キャメルの方へ駆け寄ってきました。
「お母さん!」キャメルはお母さんの方へ駆け寄り、お母さんの胸に飛び込みました。お母さんはキャメルを抱きしめ、キャメルの頭を撫でながら言いました。「鍵の開かない一階のお菓子工場の中から、お城の崖の方を伺って、あなたを見守っていましたよ。すっかり見ない間に、とても強くたくましく成長したわね。今まで寂しい思いをさせたわ。ごめんなさいね。これからは、あなたが大人になるまでの間、私の胸でおもいっきり甘えていいのよ。キャメル」キャメルはお母さんの胸に包まれて、お母さんの声がここちよい振動になって伝わっていくのを感じました。そして今まで張りきっていた力がいっぺんに抜けて、キャメルはお母さんの胸ですやすや眠ってしまいました。「お父さん!お母さん!アルベルト!」と叫びながら・・・。
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