チュチュという名の小熊のなぞ

「めずらしいお客って、お花が咲いた緑熊ちゃんなんだね!うぁー、自分でパラソルの木にかけてあった、いちごのエプロン着てる!」「ほんとだ!ティーカップも取ったよ」「なんておりこうなの!丸い木のイスに、ちゃんと腰かけて、ティーカップ持ってるわ!きっとおじいさんにごちそうしてもらうつもりじゃないの?」キャンディーたちは、口々に言いました。「そうさ、ミルクが飲みたくて、いちごのパラソルの下へやってきたんじゃよ。小熊のチュチュちゃんさ。チュチュはリトルチュチュ(注)の花畑で生まれたんじゃ。緑熊の子供は皆、花畑で生まれる。生まれた花畑の花を、それぞれ持って生まれるんじゃよ」おじいさんは、パラソルの下のチュチュを見つめながら言いました。

キャンディーたちも、目を丸くしてチュチュを見つめました。

「チュチュのパパやママも、お花持ってるの?」「お花、枯れないの?」「つぶれたりしないの?」キャンディーたちは、不思議な花小熊を見て、おじいさんに尋ねました。

「花は、丈夫に出来てるから、つぶれることはないよ。しかし、花が枯れたなら、小熊は死んでしまうんじゃよ。小熊が大人になれば、花は消えてなくなる。そして大人になった小熊は親熊になり、自分の子供の花が枯れない様に、なめながら大切に育てるんじゃ。親の愛をしっかりと受けとめて育った小熊は、とても行儀よく、りこうに育つ。母熊は、むやみに森の木を傷つけたり、食べる物を取りすぎて、無駄にしない様、自然を大切にする事も教えているんじゃよ」おじいさんは、キャンディーたちに顔を近付け話しました。「じゃぁ、この森に遊園地なんて造れないわね。おじいさん手先が器用だから、てっきり森に遊園地を造って、子供たちを元気にするのだと思ってたわ」「僕も」「僕も、そう思ってた」キャンディーたちは、頭をペコリと下げ「自然を傷付けるなんて、気が付かなくて、ごめんなさい」と、おじいさんにあやまりました。

「いいんじゃよ。だれでも気付かない事が沢山ある。人間たちが森の木々を切り倒すから、森の自然や、動物たちがほろびるんじゃ。できるだけ自然を傷つけない様に考えるべきじゃな」と、おじいさんは言い終えると立ち上がり、パラソルの下で待つチュチュの元へ近付いていきました。

チュチュは、おじいさんの姿を見つけ、「チュンチュン」と鳴いて、おじいさんの胸に飛び付きました。「おもしろい!鳥の鳴き声みたい!」キャンディーたちは、笑いながらパラソルの方へ走っていき、パラソルの木の丸いテーブルに、よじ上ってチュチュを見つめました。「さあ、チュチュ、今ミルクを温めるぞ、待っててくれ」おじいさんが声をかけると、チュチュはすぐにおじいさんから離れ、再び丸い木のイスに腰かけました。

おじいさんは、パラソルの下の、地面にあるミルク入れの扉を開け、ミルクを取り出しました。その扉の中には、氷がいれてあってひんやりしていました。おじいさんは、パラソルの近くのレンガでできた釜に火を付けて、ポットにミルクを入れてミルクを沸かすと、パラソルのテーブルの上に置いてあるハチミツをカップに入れ、ミルクを注いでスプーンでかき混ぜました。「はい、どうぞ」おじいさんは、カップをチュチュの前に置きました。チュチュのフワフワの毛が立って、薄緑色に輝きました。

「ゴクゴクゴク」チュチュは喉を鳴らしながら、おいしそうにミルクを飲みほし、「チュッフー」と、溜め息をついてカップをテーブルに置きました。パラソルの下のテーブルの上でチュチュの様子を見つめていたキャンディーたちは、チュチュの仕草に目が釘付けになり思わず笑ってしまいました。「うぁー、ミルク鼻フーセンができてる」「ハハハハハ」キャンディーたちと、おじいさんは、大笑いしました。

男の子の泣き声

と、その時、男の子の泣き声が、かすかに聞こえてきました。おじいさんは、立ち上がって様子を見に森の中へ入っていきました。キャンディーたちも、あわてておじいさんについていきました。チュチュは目を閉じて「グーグー」と、いびきをかいて、テーブルの上に顔を付けて眠ってしまいました。「チュチュいびきかいてる」キャンディーたちは、ふりかえりチュチュを見つめました。おじいさんが森の中へ進むにつれ、泣き声がだんだん大きく響いてきました。「こっちだぞ!」おじいさんは、ある一本の木の下で立ちどまりました。そして上を見上げました。地面からは、木のはっぱが生い茂っていて何も見えません。「大丈夫か?降りれなくなったのか?心配しなくてもいい、わしが今、助けるから待っておれ!」おじいさんは声をかけました。おじいさんは足の弱っているのも忘れ、無我夢中で木によじ上っていきました。キャンディーたちは、じっとその様子を木の根元に立って、うかがっていました。おじいさんは3メートルほど上がった所で、太い木の枝に腹ばいになって木にしがみ付いてシクシク泣いている7才くらいの男の子の姿を目にしました。おじいさんは、木の枝に近付き手を差しのべました。すると男の子は、おじいさんにしがみ付いてきて離れませんでした。その時、男の子の胸に《ピーター》という文字の名札が、おじいさんの目に入りました。



「なんと!わしの父の名と同じじゃ!」おじいさんはびっくりしました。「おお、よっぽど怖かったんじゃろ、体が震えておる。よいか、今から下へ降りるから、わしの背中へしがみ付け!」おじいさんは、くるりと背中を男の子の方へ向けました。

男の子は、おじいさんの背中にしがみ付いて震えていました。

おじいさんは男の子を背中に背負い、ゆっくりゆっくりと、足を下へ伸ばしながら降りていきました。

男の子が大声で!

「さあ、温かいミルクでも飲んで元気を付けよう」おじいさんは地面へ降りると、男の子を背中から降ろし、男の子の肩に両手をのせて優しく声をかけました。男の子は疲れきった様子で、黙って首を縦に振り、うなずきました。

おじいさんは、男の子と手をつなぎ、いちごのわが家へ向かって歩きはじめました。キャンディーたちは必死になって、おじいさんの後ろからついていきました。

さて、帰ってみると、いちごのパラソルの下で、チュチュは、まだグーグーと、いびきをかいて眠っていました。

「チュチュったら、のんびり屋さんだわ!まだ眠ってる」「しーっ、静かにさせてあげようよ」「寝顔も可愛いよ」キャンディーたちは、パラソルの下のテーブルに上って、チュチュの寝顔を見つめていました。

おじいさんは、パラソルの下にあるイスに、男の子を座らせ、ポットに残っていたミルクを温めなおして、パラソルの下にかけてあるもうひとつのカップに、ミルクを注ぎ入れました。キャンディーたちは心配そうに、男の子を見つめました。

おじいさんは、ミルク入りのカップを男の子の目の前に置きました。



男の子は、カップに手を差しのべ、ミルクを「ゴックン」と、ひと飲みしてカップをテーブルの上に置きました。そしていきなり大声で「わぁーん」と泣きさけびました。

キャンディーたちと、おじいさんは、びっくりして両手で耳をふさぎました。その時、チュチュが、びっくりして飛び起き、おじいさんの背中に飛びのり、しがみ付きました。

次号へ続く

(注)リトルチュチュ
ゴマノハグサ科の草花〜黄緑色の細いはっぱが、こんもりとフワフワに茂り、その周りに、沢山の黄色い小花が咲きます。5月〜10月まで咲き、ほのかにフルーツの香りが漂います。



好きな音楽を聴きながら読む芸術童話。クリスマス、バースデープレゼントにもどうぞ。カントリーファンに贈るヨーロッパを舞台とした、かわいい伽話。幸せを呼ぶ不思議な妖精プルグリムの世界へ行って主人公マーガレットと一緒に、物語を冒険しましょう。
四六判・上製・72頁 定価1,365円(税込)
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☆内容・挿し絵に感動されて、大阪日日新聞さん、宮崎日日新聞さんに取り上げていただきました。
文芸社http://www.bungeisha.co.jp/search/detail.php?bid=21973
東京都新宿区新宿1-10-1 TEL.03-5369-2299 FAX.03-5369-3066
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